年あらたまの1月と春爛漫の4月は、年の変わり目、年度の始めと言うことでなかなか身の引き締まる思いがいたします。怠惰になった日常生活やマンネリズムに陥った業務など、この時節を境にピシッとしようというモチベーションが働きます。早や4月も下旬となり、ゴールデンウィークに突入する方も多いと思いますが、新しい年度を迎えてやっと落ち着くころに連休では、事業の頭出しに出鼻を挫かれる気持ちも無きにしも非ずであります。
この年度境の3月から4月にかけては、組織にとっては重大な人事異動という一大イベントが起こります。3月あたりからどうも落ち着かなくなり、異動対象として推測される職員は仕事に実が入らず、組織全体が異動モード一色に染まります。民間の創造活動からこの世界に入ったものとしては、この異動モード感がとても異様で珍しく感じられ、浮足立つ人の姿を長年じっと観察してきました。私の専門分野である演劇では、キャスティングという俳優人事がプロデューサーや演出家によって行われます。キャスティングされる俳優の実力の差は歴然と明らかですし、役柄に合った配役が、適役や抜擢も含めてありますので傍目から見てもとてもわかりやすいです。
しかしながら、組織の人事となりますと適役適任であっても何かの力が働き、適材適所に人事が行われない場合や希望調書などをとって本人の生活環境の変化に配慮した人事も行われます。民間企業や行政機関などの大型組織は紙切れ一枚、電子媒体一通でいろいろなセクションに異動していきます。情けも何もありません。これら人事のあり方に慣れるまで時間がかかりましたが、いろいろ学ぶことも多くありました。行政機関のような組織では、一人一人の職員に目配せをするということが非常に困難でありながら、あっちへこっちへ異動するということが将来の試金石にもなったり、ゼネラリストの教育を着々と人事課が進めていきます。
しかしながら、劇場のようにたかだか数十人規模の人事に行政機関のような人事スタイルが果たして最良な人事なのかということに疑問を感じるようになりました。前任地鳥取では、文化芸術の専門職に加えて、副理事長や企画制作部長を歴任させていただき、組織の人事にも関わらせていただきました。幸い鳥取では、前知事や前理事長のお考えもあって、職員の人材育成を主眼とした人事制度を行うことができていました。余程のことがない限り、一年で人事異動を発令することはありませんでした。この人材育成を根拠とする人事制度は実際経験してみて功を奏したと思っています。職員を将棋の駒のように取り扱うのではなくて、人材を「人財」に輝かせるために、つまり地域の宝として生まれ変わらせるために人事制度を運用していくということです。
長い人生は山あり谷ありの連続です。波に乗って上昇する時もあれば転落する時もあります。職員にはこの「谷あり」の時と「転落」の時をどのように過ごせばよいのかということを考えさせなければなりません。現職階からなぜ降格待遇になったのかとか、核となる事業からなぜ外されたのかとか、なぜ配置転換になったのかとか、この悶々と考える時期が人生には必ず必要なのです。
また、この負の時期こそ、本人が飛躍的に伸びる可能性を秘めている重要な時期であることを認識させないといけません。腐っていては、余計自分をダメにするだけですから、このような時こそ、自分自身を謙虚に見つめ直して、磨き直し、務めの検証を行うことが重要です。自分や仕事を客観的に捉え直してみる作業は、例えば、大学で学び直したり、社会人の公開講座にでかけてみたり、本を読んだりなどいろいろ挑戦することはたくさんあります。その時の苦しい悔しい思いを他者にぶつけないで、人間の器を大きくするよい機会だと思ってひたすら勉強に励むしかありません。
人事の話しから、いつの間にか、苦境をどのように乗り切るかという内容に転じてしまいましたが、悲喜こもごもの思いが充満するこの季節に、もしかしたら負の時期かもしれないと思われた全国の劇場職員の方々に応援メッセージとして投げかけたかったのです。コツコツ地道に努力することによって、必ずや次のステージに飛躍できます。共に切磋琢磨していきましょう!!!