真夏の楽しみでもあり、苦行でもあるイベントに湖北の観音めぐりがあります。
8月の第1日曜に実施され、今夏で第29回を迎えた長浜市高月町の「観音の里たかつきふるさとまつり」です。湖北では古代から山岳仏教が栄えましたが、多くが戦乱に焼かれて廃寺となり、また、現在は無住になった寺院も少なくありません。そこで祀られていた仏像が逸失の危機にさらされましたが、一部が里人の手でかくまわれたりして守られ、お堂のなかでひっそりと祀られています。多くが観音像で、高月町内の21地区24カ所のお堂が年に一日、虫干しを兼ねて無料公開されるのです。単に公開しているのでなく、その日はお堂を守る年番だけでなく自治会の役員らが総出で、全国から訪れる人たちをおもてなししており、里人との交流も楽しみになっています。
高月の観音めぐりは今回で3回目です。過去2回はマイカーで回りましたが、今回は、10月1日発行の「湖国と文化」第145号の特集「近江を歩く滋賀を走る」の一環として滋賀県ウオーキング協会主催の「高月観音の道ウオーキング」に参加、数十人の仲間と一緒に歩いて挑戦しました(31~33ページ)。
観音めぐりを知ったのは2008年ごろ。向源寺の国宝十一面観音やお隣、木之本町の石道寺の十一面観音が好きで何度も訪れていましたが、別件で湖北を調べた折に知り、おそるおそるマイカーで参加したのです。最初に唐川地区の赤後(しゃくご)寺に伺い、重要文化財の聖観音と千手観音を拝み、堂守の人からお堂を守るありがたい話を伺いました。そのあと、石段を下りたところにある休憩所で振る舞われたスイカのおいしかったこと。観音めぐりの楽しさは、秘仏との出会いもさることながら、里人との交流やおもてなしにもあると思われます。
2回目は2010年。前回で様子はわかっていましたので、早めに出て午前9時ごろに唐川に到着、西側地区から始めて24カ所すべてを目標に出発したのです。珍しい仏像を拝み、冷茶の接待や時には凍らせた柿などに勇気をもらい、次々と回っていきます。しかし、マイカーとはいえ、駐車場からときには急坂を上っていくのだから大変です。唐川地区から南下、琵琶湖岸にある片山地区の十一面観音を拝んで南まわりに東進、今度はJR高月駅付近から北上しましたが、午後4時ごろ、疲れ果てて3堂を残して切り上げました。
その時の満足した疲労感は今でも懐かしく思い出されます。
今回の高月観音の道ウオーキングは8カ所ずつ3回に分けて歩くやり方で、最後に渡岸寺地区にある向源寺を含めて9カ所を拝観しました。約15km、無理のないペースで、仲間としゃべりながらの楽しいウオーキングになりましたが、何しろ数十人の大所帯、拝観もスタンプ押しも接待もすべて行列、お茶を飲んだころには出発の繰り返しで、里人との交流ができなかったとの思いは残りました。
ところで、全国から人が訪れる「画期的な」イベントなのに、毎年の行事として日常化しているためか、新聞やテレビ等で取り上げられることがあまりありません。ある意味、仕方がありませんが、全国に知られた催しなのに、県内や地元で知らない人が多いのはつくづく残念なことだと思います。こうした地道な取り組みを報じて、溝をうめるのも小誌の役割かもしれません。