第38回滋賀県芸術文化祭

第47回(平成20年度)滋賀県写真展覧会の入賞作品

○出品作品総数    579点

○応 募 者 数    299人

○審  査   員   中村吉之介氏(写真家)・神崎順一氏(写真家)

○入 賞 作 品   以下のとおり(敬称略) 
【総 評】

 応募点数も多く全体のレベルも高い。以前だったら、あるいは、他展であれば入選、入賞してもおかしくない作品が選外になってゆく、滋賀県展は激戦だとの印象を持った。ではその差はどこにあるのか。写真はよくも悪くも表現に「今」を背負っている。そのため過去に発表された類似作品があるとどんなに優れていても評価が辛くなってしまう。新しい視点で作者本来の感性をどの様に生かすかが一番大切だ。その他単写真、組写真にかかわらず説明的になりすぎる部分が多いのも気になった。画面に余韻を持たせることが見る人に想像の余地を与え作品に深みが増す。デジタルカメラでの撮影が増えているがパソコンでの修正加工が先ずありきではなくフィルムとは違った領域が撮れるという特性を認識し、新しい表現に生かして欲しい。

●芸術文化祭賞
「街  角」 伊藤 博
[選評]

 現代社会、都市生活の様相を奥深く表現している作品だ。複雑なリフレクションを鋭く大きな黄色のまなざしでまとめ強い印象を与える。目立ちはしないが画面の隅々にちりばめられた「今」が効果的に画面を構成しているし、グレーの色調もマッチしている。

●特選・滋賀県議会議長賞
「ミステリーゾーン」 津川 敬子
[選評]

 都市の建造物の一角が強い陽と深い陰影の瞬間アートな空間を作り出す。作者はその時を逃さず更により写真的な表現を求めフィルターワークでそれを生かした。テクニックも目立たなく効果的。モノトーンも無機質なモチーフにはぴったりだ。

●特選・滋賀県教育委員会教育長賞
「夏の終り」 河田 和子
[選評]

 優れた絵画を見ているようで、より写真的に優れているのは点景としての赤い傘だろう。作者のこのセンスが光っている。アングルの発見、色調、構成、構図どれをとってみても、小憎たらしいほど隙のない完成された作品だ。

●特選・滋賀県文化振興事業団理事長賞
「春の里」 川村 恒雄
[選評]

 複雑な画面、平凡な風景を一変してしまうのは光のマジックだ。写真の成否は光のとらえ方で決まるといっても過言ではない。偶然であるにせよ、計算されたにせよ、春の情景をピンポイントの逆光で、シャッターチャンス良く安定した構図でとらえた作者の力量に脱帽。

●特選・滋賀県写真連盟会長賞
「本日閉店」 伴 光藏
[選評] 

  何故か天気のよくない日は写真になりやすい。深さが出てくるからだろうか。落ち着いたトーンが全体を覆う、静かだが3本の傘がリズミカルな作品。極端なまで単純化されたシンメトリーな構図の選択眼に敬意を表したい。

●特選・産経新聞社賞
「不  安」 阿部 充博
[選評]

 雨にぬれたウインドウの中から人恋しげな視線を投げかける子犬。情感溢れた作品である。写真のテーマが現代社会とシンクロしているのか無機質な写真が多いなか、このような「情」呼ぶ写真が少なくなっている。視線を評価したい。

●特選・KBS京都賞
「妻籠宿寸描」 布施 繁子 [選評] 

 古色のたたずまいの中にあでやかにいけられた花々。何かミスマッチな雰囲気が楽しめる作品に仕上がった。フォトハイキングの成果であろうか。

●特選・共同通信社賞
「水中のマジシャン」 中村 淳一郎
[選評]

 風景に凛と立ち向かうのも良い。けれど時には気を抜いて写真を始めた頃の、写真ってこんなに楽しいものなのかを思い出して欲しい。この作品はそんな楽しさを秘めている。苦労の末の作品ならお許しを。写真的な技術力は勿論評価している。

●特選・京都新聞社賞
「里  坊」 田中 博文
[選評]

 画面の情景を見ているだけで心安らかになる。見るものの心理を上手くつかんだ作品だ。暮れかけのブルーな木々、障子に映るほのかな明かり。条件が出来あがっている。人物に演出っぽさが見えるがその点もう一工夫すればと思う。

●特選・毎日新聞社賞
「慈  愛」 廣田 良二
[選評]

 人には心地よいと感じる共通の色があるような気がしてならない。南欧の路地で見つけた一コマであろうか。色温度の高い陰が生み出すブルーの色調が白壁と上手く調和し、猫という役者を得て夢のようなシーンを生み出した。

●特選・BBCびわ湖放送賞
「水滴の便り」 香川 正子
[選評]

 蓮は写真のモチーフとして魅力的だが多くはその花の美しさに目を向ける。この作者はあえて単色の葉に焦点を移しその水滴で蓮の持つもう一つの美しさを引き出そうと試みている。きらめく輝きはまるで宝石のようだ。

●特選・朝日新聞社賞
「おにいちゃんガンバレ!」 朏 治雄
[選評]

 二人の子供の表情が実にいい。スナップとしては珍しいほど画面がまとまっている。作者の人柄が偲ばれる。写真は世代を結ぶ大切な絆でもある。人物の撮りにくい時代ではあるがこんな楽しいファミリーの写真がもっと見たいものだ。

●特選・時事通信社賞
「出番待ち」 角田 憲治
[選評]

 大きな情景を前にした時その雰囲気に飲み込まれることがよくある。何に興味を引かれたのか。立ち止まり一息置くとよいものが見えてくる。イベントの喧騒の中、作者は素敵なフレームを発見した。

●特選・日本経済新聞社賞
「里山長寿倶楽部」 井原 進 [選評]

 街角にたたずむ木々。何気なく通りすぎてゆくその一本一本にもわれわれと同じ生物として意思がありじっと見つめているよ、という発想だろうか。自然との共存を意識させられる写真だ。組写真を連作という表現で効果をあげている。

●特選・中日新聞社賞
「雨あがり」 本田 義則
[選評] 

 既成概念のない発見がいかに大切かこの作品が教えてくれる。被写体としてたいして気にも留めない足元の草に咲いた水滴を大きく取り込むことで深山の情景が表現できた。大きな風景の中では小さなものに目を向ける特にそれが大切だ。

●特選・日本放送協会大津放送局長賞
「クライマックス」 野田 吉昭
[特選]

 一瞬、ヒロヤマガタの作品を想像した。白の花火、ブルーの空間、点景の人物、点在する色花火。多くの花火作品の中で最もメルヘンを感じた。

●特選・読売新聞社賞
「ハーイ 上向いて!」 清水 靖信
[選評]

 子供が先か、アシカが先かこの種の作品には創ろうとすれば迷うところがある。作者はそのようなことは関係なく感じたままの情景を素直にシャッターを押した。ふれあいの不自然さがどこにもないそんな良い瞬間が伝わってくる。

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